「配偶者の不倫が発覚した!二度と不倫しないって誓約書を書かせたいけど、効力はあるの?」
不倫の誓約書を作成しておけば、慰謝料請求の際などに有力な証拠となり、話合いを有利に進めやすくなります。
誓約書には、当事者に不倫の事実を認めさせたうえ、慰謝料の支払いや二度と会わない旨の約束などを記載することが多いです。
しかし、「具体的な作成方法や作成時の注意点などがよくわからない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこでこのコラムでは、不倫誓約書を作成するメリットやその効力、作成時のポイントなどについて弁護士が解説します。
不倫誓約書とは
不倫誓約書とは、一般的に不倫(ここでは、肉体関係を伴う不倫を前提とします)が発覚した際に、配偶者や不倫相手に記載してもらう書面のことです。
書面に記載される内容はさまざまですが、たとえば次のような内容を記載します。
• 不倫当事者が認めた不倫の事実や内容
• 慰謝料の額と支払時期や支払方法
• 不倫関係を解消すること
• 今後二度と会わないこと
• 約束を守らなかった場合の違約金 など
このような不倫誓約書がよく利用されているのは、不倫した事実や約束した内容の客観的な証拠となるためです。
口頭で不倫を認めたとしても、後日、「言った・言わない」でトラブルになることがあります。客観的な証拠となる書面を作成しておけば、トラブルの再燃を予防できる可能性が高まります。
「合意書(示談書)」と「誓約書」の違いとは?
不倫の慰謝料請求において、「合意書」を作成するケースもあります。
「誓約書」は、請求された側の一方的な意思表示を書面にしたものですが、「合意書」は、請求する側と請求された側の合意内容を記載した書面です。
したがって、誓約書は請求する側・される側の双方がその内容に合意した証拠にはならない可能性があり、のちのトラブル防止の観点からは、不十分な場合があります。
ただし、請求された側(不倫した配偶者やその不倫相手)が誓約書に「慰謝料として〇〇万円支払います」と記載していれば、その金額を請求できる可能性はあります。
不倫誓約書を作成するメリット
不倫誓約書を作成することには、次のようなメリットがあります。
(1)離婚の際の交渉を有利に進められる
不倫誓約書は不貞行為(基本的には、肉体関係をともなう不倫のこと)の証拠となり得ます。
したがって、不倫した配偶者から離婚を請求されたとしても、誓約書があれば「有責配偶者(離婚原因を作った当事者)からの離婚請求は原則認められない」と反論することができます。
反対に、こちらは離婚したいのに不倫した配偶者が離婚を拒否する場合には、不貞行為という法律上の離婚原因があるといえるため、最終的に離婚が認められる可能性が高いでしょう。
詳しくは、「離婚に必要な5つの理由」でも解説していますので、参考にしてみてください。
(2)不倫当事者へ心理的プレッシャーを与えられる
不倫誓約書に慰謝料を支払う約束を記載させることで、不貞行為が慰謝料の発生する不法行為であると当事者に認識させることが期待できます。
口頭の話合いだけだと、相手が深刻にとらえない可能性があるうえ、「そんなことは言っていない」などと言われるなど、のちのちトラブルになる可能性もあります。
(3)不倫の再発を予防できる
慰謝料を請求する意思はなくても、誓約書に次のような記載をしておけば、不貞行為の再発防止効果が期待できます。
「接触禁止の約束に反したら〇円支払う」
「再度の不倫はしない、不倫したら〇円支払う」
離婚するつもりはなく、配偶者との関係修復を優先したい場合には、このような記載をするとよいでしょう!
不倫誓約書は配偶者に書かせる場合が多い
不倫誓約書は、配偶者と不倫相手の両方に書かせても構いませんし、どちらか一方だけに書かせても構いません。
一般的には、夫婦関係については今後検討することとして(離婚するのか、夫婦関係を修復するのか)、まず配偶者に、不倫の事実やその責任などを認めさせるために書かせることが多いようです。
これは、夫婦間であれば比較的話しやすいこと、不倫相手と直接話すのには多大なストレスがかかることなどが主な理由だと思われます。
また、次のような場合も、配偶者にのみ誓約書を作成させることが多いです。
• 不倫相手には慰謝料を請求しないと決めた場合
• 不倫相手には慰謝料を請求できない場合
(たとえば、配偶者が不倫相手に既婚であることを隠しており、不倫相手がそれを信じてもやむを得ないといえる場合など)
不倫相手に慰謝料を請求するための条件について詳しくは、「不倫相手に慰謝料請求ができる条件とできないケース」をご覧ください。
不倫誓約書を不倫相手に書かせる場合もある
不倫相手に不倫誓約書を書かせる場合もあります。
不倫相手と直接話し合うことに抵抗があれば、弁護士に依頼し、弁護士に不倫相手と交渉してもらうことも可能です。
不倫相手が不倫を素直に認める場合には、交渉して慰謝料の額、支払方法、支払期日などについて決めます。
夫婦関係を継続する予定であれば、不倫相手が配偶者と連絡を取らないように、接触禁止の約束ができることもあります。
ただし、不倫相手も既婚者であるダブル不倫の場合、不倫相手に慰謝料請求すると、それがきっかけで不倫相手の配偶者に不倫のことが発覚する可能性があるため注意しましょう。
発覚すれば当然、不倫相手の配偶者が、自分の配偶者に対して慰謝料請求をする事態になりかねません。
ですから、不倫相手が既婚者の場合には、慰謝料請求をするかどうかは慎重に考える必要があるでしょう。
不倫相手に誓約書を書かせるなら、公正証書にしたほうがよいと聞いたのですが、本当ですか?
不倫相手に慰謝料を支払わせる場合には、公正証書で作るメリットがあります(※誓約書を作成する時点で支払済の場合は公正証書にしなくても構いません)。
なぜなら、「強制執行認諾約款」の入っている公正証書であれば、将来、慰謝料の支払いがない場合には、不倫相手の財産を差し押さえることが法的に可能になるからです。
とはいえ、いきなり「公正証書を作りたい」と言うと、相手も警戒して誓約書の作成自体を拒否してくるかもしれませんので、様子を見ながらにするとよいでしょう。
公正証書について詳しくはこちらをご覧ください。
参考:公証制度について|法務省
不倫誓約書の具体的な記載内容
実際に、不倫をした配偶者に不倫誓約書を作成させる際に記載される一般的な内容についてご説明します。
離婚前提なのか、夫婦関係を修復するのかによっても記載内容は異なってきますが、あくまで一例として参考にしてみてください。
(1)不貞行為の具体的事実を認めて謝罪する文言
不貞行為の内容としては、次の事実について具体的に記載してもらうようにします。
• 誰が
• 誰と
• いつ
• どこで
• どの程度(頻度や肉体関係の回数)不貞行為を行ったか
• 不倫相手は配偶者が既婚者であることを認識していたか
配偶者は、罪悪感や具体的には話したくないという気持ちから、「覚えていない」、「わからない」と言うかもしれません。
しかし、不貞行為の証拠としては、内容が具体的に記載されているほう方がよいので、しっかりと記載してもらうようにしましょう。
さらに、不貞行為を行って円満な夫婦関係を破壊し、精神的苦痛を与えたことについて、反省・謝罪する文言を記載することもあります。
誓約書に上記のような不貞行為を認める記載があれば、不貞行為の証拠となり得ます。
不貞行為の証拠は、離婚や慰謝料を請求する際の交渉を有利に進めるために役立つでしょう。
(2)慰謝料の支払いを約束する文言
配偶者が、今回発覚した不貞行為の慰謝料を支払うことを約束したのであれば、その内容を記載しましょう。
記載すべき内容は、次のとおりです。
• 誰が
• 誰に対して
• いつ
• どうやって
• いくら支払うのか
(3)その他
その他誓約する内容は、夫婦の状況によってさまざまです。
夫婦関係を修復する場合には、不倫関係を清算して、二度と不倫をしないと約束してもらうことが重要になります。
そこで、場合によっては、次のような内容を記載することもあります。
• ただちに不倫をやめて不倫相手との関係を解消すること
• 不倫相手の連絡先や写真を携帯から消去すること
• 不倫相手と二度と連絡・接触しないこと など
(4)違反した場合のペナルティ
合意した内容に違反した場合のペナルティについても記載します。
ペナルティを定めることで、配偶者は合意に違反したら経済的なデメリットを負うことになるため、約束を守ろうとする意識を強く持たせる効果が期待できます。
たとえば、次のような内容です。
• 接触禁止の約束に違反したら、違約金として一回あたり30万円支払う
このような記載をすることにより、不倫の事実や、不倫相手と接触した事実を立証できれば、違約金について再度話し合って決めることなく、その支払いを求めることができます。
ただし、違約金があまりに高額な場合、公序良俗違反(民法第90条)として無効になることがあるため、金額には注意が必要です。
不倫の慰謝料の相場は、離婚した場合で100万~300万円程度、離婚しない場合で数十万~100万円程度ですので、この相場からあまりにかけ離れると、公序良俗に反するとされる可能性があります。
慰謝料や違約金の金額を決める際には、この相場を参考にして決めるようにしましょう。
不倫誓約書の書き方のポイントや注意点
最後に、不倫誓約書を書く際に知っておきたいポイントや注意点についてご説明します。
(1)本文は手書きでなくても問題ないが、署名・押印は本人に
不倫誓約書の本文はパソコンなどで作成しても何ら問題ありません。
途中で書き損じて、修正が必要になること考えるとパソコンで作成したほうが効率的でしょう。
書面の最後には、誓約書の作成者(今回の場合、不倫した配偶者またはその不倫相手)を特定するための情報を記載します。
通常は、署名、住所、押印です。署名は必ず自筆で、本人が押印するようにしましょう。
(2)無効となりうるような内容に気を付ける
せっかく誓約書を書かせたとしても、次のようなケースでは、その効力が否定される可能性がありますので、注意しましょう。
(2-1)公序良俗(社会的なモラルや良識)に違反するケース
先ほどもご説明したとおり、公序良俗に反する内容の法律行為は無効です。
次のような内容は公序良俗に反するとして、誓約書の効力が無効とされる可能性があります。
• 仕事以外での外出を認めない、友達と会うのも配偶者の許可を必要とする
• 一生配偶者の言うことを聞き、一切逆らわない
• 24時間居場所がわかるようにGPSを持ち歩く など
(2-2)契約になじまない内容を盛り込んだケース
契約になじまない内容は、不倫誓約書に記載したとしても、法的な強制力はありません。
たとえば、「再度不倫したら、離婚することに異議を唱えない」という記載があったとしても、法的効力はなく、不倫をした配偶者は、協議離婚を拒否することができます。
協議離婚はその時点での当事者の意思に基づいて成立するものであり、契約によって、将来の離婚意思を拘束することはできないためです。
ただし、再度不倫したのが事実であれば、先ほどご説明したとおり、不貞行為は法律上の離婚原因であるため、裁判になれば離婚が認められる可能性が高いでしょう。
また、たとえ誓約書の効力は否定されなくても、あまりに相手の自由やプライバシーを制限するような内容の誓約をさせる場合、相手の気持ちが冷めてしまいかねません。
そうなると夫婦関係の修復を目指す場合には裏目に出てしまう可能性があるため、注意が必要です。
誓約書の内容については、夫婦間でよく話し合うようにしましょう。
(3)不倫誓約書を拒否される場合も想定しておく
不倫をした当事者が、話合い自体を拒否したり、そんな高額の慰謝料は支払えないと反論したりして、不倫誓約書の作成を拒否することもあります。
このような場合に、不倫誓約書を書くことを強制することはできません。
また、「会社に不倫をばらされたくないなら署名しろ」などと無理やり誓約書に署名させると、強要罪(刑法第223条1項)が成立する可能性があります。
仮にこのような手法で不倫誓約書を作成したとしても、強迫により契約させられたとして、相手は合意を取り消すことができます(民法第96条1項)。
したがって、感情的になってトラブルを拡大させることのないよう、冷静に話し合いましょう。
「不倫相手にしてはいけないこと」はこちらもご覧ください。
【まとめ】不倫誓約書は再発防止策として有効
配偶者の不倫が発覚したら、不倫した事実を認めさせ、慰謝料の支払いや不倫関係の清算を約束する内容の誓約書を作成することがあります。
そのような書面は、慰謝料や離婚を請求する際の客観的な証拠になり得るため、交渉を有利に進めるための材料になるでしょう。
また、不倫誓約書には、不倫の再発を防止する効果も期待できますので、夫婦関係の修復を目指す場合であっても作成するメリットがあると考えられます。
もっとも、公序良俗に反する内容は無効とされますので、どのような内容の誓約書でも法的に有効であるとは限りません。
不倫トラブルが発生し、法的に有効な誓約書などの書面を作成したいとお考えの場合には、不倫トラブルや離婚問題について取り扱っている弁護士に相談することをおすすめします。
私が弁護士を志したきっかけは、日常生活の中で時々、法的な問題に直面することがあったことです。法律というものは難解なものであると思われている側面が強いと思います。私も勉強するまでは、ちょっと近づきがたいものだと思っていました。しかし、弁護士となったからには、依頼者の方が何に悩んでいて何を求めているのかをしっかりと共有し、少しでも分かりやすく法的な問題点をご説明し、今後どのように問題解決に向けていくことが出来るのかを一緒に考えていきたいと思っております。